はよ風呂入りんさい

　夕飯を食った後の話。
　その日はずっとマンガにふけっていたので、ちょっと汗ばむくらい歩いて来ようと思ったワケだ。だんだん横腹も痛くなってきて、食後にそんな運動するもんでもないからすぐ帰ろうとした。ヤケに背後が気になる。今日読んだ本の、フィルムを再生する度に女の子がこっちを振り向いてくるというお話が頭をよぎって離れない。
　まぁ後ろ見ても何もない。当たり前、こんな夜中に外出てる人も居ないし幽霊がこんな簡単に出てきたらもっと身近な存在になってるだろう。
　目を閉じて歩いてみた。真っ暗になった目の前で、女の人が手が届くくらいの距離で立っているのを想像したらちょっと怖くなったけど、そんなもん目を開けたら居ないことくらい……


　……
　……


　！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！


　そこに白い人影が……！！

　鳥肌が立つ時のぞわわ～～という感覚を思い出して欲しい。人影を見た瞬間、その感覚が、頭から足まで一瞬で通り抜けた。声を出さなかったのは全くの偶然だろう。


　人影は犬を連れている。……母だった。


「はよ風呂入りんさいよ」
「うん……」

　心臓の音がものっそい聞こえた。足の震えはなかなか治まらなかった。